これが京都の市中などであると、たまたま始めての街筋へ出ても、前から知っていた街のような親しみを覚え、ついその辺の人に話しかけてみたくもなるのに、東京と云うところは、いつ来て見ても自分には縁もゆかりもない、余所々々しい土地なのである。
そして幸子は、こう云う都会のこう云う区域に、生粋の大阪ッ子であり、紛う方なき自分の姉である人が、今現に住んでいると云うことが、どうしても信じられないことのような、………夢の中などで全然見覚えのない街を歩いて行って、母だとか姉だとかが住んでいる家に行き着いたりして、ああ、こんな所にお母ちゃんや姉ちゃんはいやはったのかいなあと思ったりする、………ちょうどあれに似た気持がするのであったが、それにしてもよくまあ姉がこう云う街で暮していられるものよと思い、実際そこに行き着くまではまだ本当でないようにも感じられた。
と、自動車は道玄坂を殆ど上り切ったあたりで、左の方の閑静な住宅街へ曲って行ったが、途端に十歳ぐらいを頭に、二三人の子供達がバラバラと車を取り巻きながら駈けて来た。