で、もう学校も始まる時分やし、早く帰らないとルミーさんもマニラへ立ってしまうし、………と、悦子はぽつぽつ母に耳こすりをする始末であった。
それに彼女は、自分がそう云う躾方をされたことがないので、伯母の折檻が始まると、脅えたような眼つきをして伯母の顔を盗み視るのであった。
幸子は、自分達姉妹のうちで一番と云ってもよいくらい優しいところのある姉を、そんなことで悦子が悪く思うようになりはしまいか、又それが彼女の神経衰弱に変な影響を及ぼしはしまいか、と云うようなことも心配になって来て、旁〻先にお春を附けて帰すに越したことはないと思ったのであるが、困ったことには、櫛田医師から紹介状を貰って来た東大の杉浦博士が目下旅行中で、九月上旬でなければ帰京しないと云うことなので、それを待たなければ、悦子を東京へ連れて来た目的が果たされないのであった。