幸子は昔、この義兄が養子に来たばかりの頃、妹たちとぐるになってちょいちょい意地悪をしてやったり、それが分って姉を泣かしたりしたことがあったのを懐しく想い出したが、義兄の気の弱い人の好い方面や、姉以上に神経を使ってくれている様子などが眼に見えるにつけて、まさか娘時代のような意地悪も出来ないし、矢張今度は此処に泊っているより仕方があるまい、この上は杉浦博士の診察が済みさえしたら一日も早く関西へ立ちたい、と、そう思いつつ八月じゅうはとうとう渋谷で暮してしまった。
十六
すると、その明くる日、九月一日の夜のことであった。