尤も、四五年前、昭和九年の秋であったか、大阪の天王寺の塔が倒れ、京都の東山が裸にされた時の烈風は彼女も知っており、二三十分ほど恐いと思った覚えもあるけれども、でもあの時は、蘆屋辺は大したことはなかったので、天王寺の塔が倒れたことを新聞で読んで、それほどひどい風だったのかと意外に感じたくらいであり、勿論今度東京で経験したのとは、比べられるようなものではなかった。
実を云うと、あの時の記憶があったので、あの程度の風でも五重塔が倒れたのだから、とてもこの風ではこの家が保つまいと云う気がして、恐怖が倍加されたのであった。
尚又、風の勢も強かったには違いないが、たまたま泊っていた渋谷の家が安普請であったことが、その勢を五倍にも十倍にも感じさせたのであった。