皆が顫えている中で努めて泰然としていた辰雄も、その壁の様子を見て不安になったらしく、ここの家だけがこんなに揺れるのと違うだろうか、隣近所は普請がええからまさかこんなことはあるまい、………と、そう云い出したので、小泉さんの所なんかきっと大丈夫だよ、あの家は頑丈だし、平屋だから、………と、輝雄がその尾について云った。
ねえ、お父さん、小泉さんとこへ避難しようじゃないか、此処にいて潰されてしまっちゃ詰まらないじゃないか、………まさか潰れもしないだろうが、或は避難する方が安全かも知れん、―――しかし寝てる所を起すのも悪かないだろうか、………と、辰雄は躊躇したが、そんなこと云うてる場合やあれしませんで、………この大嵐に小泉さんとこかて起きてはりますがな、と、鶴子が云うと、それを切掛けに誰も彼も避難しよう避難しようと云い出した。
小泉と云うのは、裏の塀一重向うの家で、勝手口から出ればその家の裏門が一と跨ぎの所にあった。