主人は退職の官吏とやらで、老夫婦に息子一人の三人暮しをしているのであったが、たまたまその息子の通っている中学が、輝雄の今度転校した中学と同じ学校だった関係から、便宜を計ってくれたことなどがあって、辰雄も輝雄も、二三度その家の応接間へ通ったことがあるのであった。
と、女中部屋にいたお春とお久とが、何かこそこそ相談し合っている風であったが、その時出て来て、そんならちょっと、小泉さんとこまでお久どんと二人で様子を見に行って参りましょう、と、お春が云った。
そして都合に依ったら、あんじょうお頼みして参りますわ、―――お春は「小泉さん」などと云ってもその家が何処にあるのだかも知っている訳はなかったが、そう云うことには自信があるところから、お久に連れて行って貰いさえすれば、あとは自分が頼み込んで来ると云う積りらしいのであった。