雪子とお春が宿まで送って来てくれたので、皆で銀座へ散歩に出て洋食でも食べようと云うことになったが、そんなら尾張町のローマイヤア云う店へいらしって御覧なさりませと、女将が教えてくれたので、そこへ行ってお春にも相伴をさせてやり、帰りに夜店を冷やかしてから服部の角で二人に別れて、幸子と悦子とが浜屋へ歩いて戻ったのは九時過ぎであったろうか。
幸子は、夫を家に残して娘と二人旅先の宿に泊るなどと云うことは、これも始めての経験であるところへ持って来て、夜が更けるに連れて、昨夜の恐怖が又もや思い出されて来るので、アダリンを飲んでみたり、持薬に持って来たブランデーを舐めてみたりしたけれども、容易に眠ることが出来ず、明け方の電車の音が聞える時分までまんじりともしないでしまった。
悦子も矢張そうであったと見え、寝られない寝られないと云って頻りに懊れ、お母ちゃん悦子明日帰るよ、杉浦博士に診てもうええ、こないしてたら神経衰弱ひどうなるばかりやわ、悦子それより早う帰ってルミーさんに会いたいねん、………と、駄々を捏ねたりしたが、それでも朝になってから鼾を掻いてよく眠った。