悦子も矢張そうであったと見え、寝られない寝られないと云って頻りに懊れ、お母ちゃん悦子明日帰るよ、杉浦博士に診てもうええ、こないしてたら神経衰弱ひどうなるばかりやわ、悦子それより早う帰ってルミーさんに会いたいねん、………と、駄々を捏ねたりしたが、それでも朝になってから鼾を掻いてよく眠った。
幸子は七時頃に、自分はとても寝られないと諦めて、悦子の睡りを破らないようにそうっと起きて新聞を取り寄せ、築地川の見える廊下に出て、籐椅子にかけた。
彼女は近頃世界の視聴を集めている亜細亜と欧羅巴の二つの事件、―――日本軍の漢口進攻作戦とチェッコのズデーテン問題、―――の成行がどうなるであろうかと、朝な朝なの新聞を待ち兼ねるくらいにして読むのであるが、東京へ来てからは大朝や大毎で読むのとは違って、馴染のうすい此方の紙面で読むせいか、記事が頭へ這入りにくく、何となく親しみが湧いて来ないので、直きに新聞にも飽きて、ぼんやりと川の両岸の人通りを眺めていた。