大黒屋から浜屋の座敷へ引き揚げて、姉は夕方まで話して帰ったが、子供を助けて貰ったことからすっかりお春に打ち込んでしまった彼女は、その労を犒う意味もあって、この際お春とお久とを日光見物に行かしてやりたいがどうであろう、と云う提議をした。
姉は、実はお久が大阪へ帰りたがるのを引き留めるために、そのうち日光へ行かしてやるからと云う条件を附けたのであるが、恰好な同伴者が見付からないので、延び延びになっていたのである、それで、ちょうど好い折であるから、お春どんに附き合うて貰おうではないか、あたしも日光は知らないけれども、浅草から出る東武電車とやらに乗れば、降りてからバスの連絡があって、東照宮から華厳の滝、中禅寺湖まで見物して日帰りで行って来られるそうな、兄さんも是非そうしてやってほしい、費用はあたしの方で出さして貰うと云っている、と、そう云うのであった。
幸子は、それではお春が巧いことをし過ぎるようにも思ったけれども、彼女を行かしてやらないとお久も行かれなくなるのでは、お久が気の毒であるし、それにもう、内々様子を聞いたらしくて、すっかり当人は喜んでしまっていると云うのに、許してやらないのも罪なようなので、兎も角も姉の計らいに任せた。