姉は、実はお久が大阪へ帰りたがるのを引き留めるために、そのうち日光へ行かしてやるからと云う条件を附けたのであるが、恰好な同伴者が見付からないので、延び延びになっていたのである、それで、ちょうど好い折であるから、お春どんに附き合うて貰おうではないか、あたしも日光は知らないけれども、浅草から出る東武電車とやらに乗れば、降りてからバスの連絡があって、東照宮から華厳の滝、中禅寺湖まで見物して日帰りで行って来られるそうな、兄さんも是非そうしてやってほしい、費用はあたしの方で出さして貰うと云っている、と、そう云うのであった。
幸子は、それではお春が巧いことをし過ぎるようにも思ったけれども、彼女を行かしてやらないとお久も行かれなくなるのでは、お久が気の毒であるし、それにもう、内々様子を聞いたらしくて、すっかり当人は喜んでしまっていると云うのに、許してやらないのも罪なようなので、兎も角も姉の計らいに任せた。
と、その翌々日の朝姉から電話で、昨夜二人に日光行きのことを話したら、夜の眼も寝ずに楽しみにして、今日早朝に立って行ったこと、万一の用意はさせてやったけれども、今夜の七八時頃迄には帰って来られる予定であること、これから雪子がそちらへ行くと云っていること、等々を知らせて来たので、雪子が来たら三人で美術院と二科展でも見に行こうか、などと思いながら受話器を置いたが、その時女中が襖の間から速達郵便を差入れて行ったのを、悦子が変な顔つきをして受け取りながら裏を返して見て、黙って母親の凭りかかっている卓上に置いた。