と、その翌々日の朝姉から電話で、昨夜二人に日光行きのことを話したら、夜の眼も寝ずに楽しみにして、今日早朝に立って行ったこと、万一の用意はさせてやったけれども、今夜の七八時頃迄には帰って来られる予定であること、これから雪子がそちらへ行くと云っていること、等々を知らせて来たので、雪子が来たら三人で美術院と二科展でも見に行こうか、などと思いながら受話器を置いたが、その時女中が襖の間から速達郵便を差入れて行ったのを、悦子が変な顔つきをして受け取りながら裏を返して見て、黙って母親の凭りかかっている卓上に置いた。
見ると四角な西洋封筒に、明かに夫の手とは違う筆蹟で、「浜屋旅館方、蒔岡幸子様、親展」と記してある。
夫より外に東京のこの旅館へ宛てて手紙を寄越す人はない筈だがと、不思議に感じたが、差出人は「大阪市天王寺区茶臼山町二三奥畑啓三郎」なのであった。