それでなくても帰心矢の如くであった彼女は、こう云う手紙を手にした以上一日も東京にぐずぐずしてはいられない気がした。
何を措いても帰宅早々事の真相を明かにしなければならないが、これを調べるにはどんな方法を以てしたらよいか、当人達を興奮させないようにして問い質すにはどう云う風に切り出すべきか、いったいこのことは夫に相談したものであろうか、いやいや、これは最後迄自分一人の責任として、夫にも雪子にも打ち明けないで秘密の裡に真相を突き止めるべきではなかろうか、そして、不幸にして事実であった場合にも、当人達に疵をつけないように、誰にも知られないようにして手を切らせるのが最上の策ではないであろうか、―――等々のことが交〻頭に浮かんだが、それよりも、さしあたり自分が帰る迄の間、板倉を宅へ寄せ着けないようにするにはどうしたらよいか、と云うことが、一層焦眉の問題として考えられた。
なぜと云って、今しがた読んだ手紙の中で、「彼は姉上のお留守中も毎日お宅にお邪魔しているようです」とあった文句が、分けても彼女を狼狽させたからであった。