それは今雇われているアマ達の前にいた人達の時分のこと、―――そのアマ達は、幸子などが見れば骨身を惜しまずによく働く寔に忠実な人々であったが、でも彼女達にして見ると、夫人の人使いが余り激しいのが、かねてから不満だったのであろう、うちの奥様は自分が先に立って、一分の時間も無駄にしないように段取りを附けて用をなさるので、私達も一つの仕事を済ませると直ぐ次の仕事へと追い立てられる、私達は日本人の家庭に雇われるよりは沢山お給金も貰っているし、家事についていろいろ為めになることも教えて貰うが、何しろ一日じゅう、息つく暇がない、全くうちの奥さんは主婦としては偉い奥さんで敬服させられてしまうけれども、使われる身になっては遣り切れない、と、そう云い云いしたものであった。
ところが或る朝、このアマ達の日課になっているシュトルツ邸の塀の外周りの掃除を、幸子方の下働きのお秋が、此方の塀外を掃除するついでに、してしまったことがあった。
お秋にすれば毎度シュトルツさんのアマさん達が此方の家の外周りを掃いてくれるので、たまに、たった一回お礼心に掃いてやったのに過ぎないのであったが、シュトルツ夫人がそれを見付けて、自分達の受持の仕事を余所の女中さんにして貰うとは何と云うふしだらなことかと、ひどくアマ達を叱ったので、アマ達も負けてはいなかった。