悦子は学校から帰って来ると、あれ以来空家になっている旧シュトルツ家の境界の金網の方へ行って、今は徒らに雑草の繁みの中に虫が鳴いている裏庭を、なつかしそうに網の目の間から覗いたりしていた。
彼女は今迄、あまり近い所に恰好な友達が出来たために学校の同級生とはそんなに遊ぶ折もなく、だんだん疎遠になっていたので、こうなると寂寥に堪えないらしく、ぽつぽつ新しい仲好しを作るようにはしていたけれども、急には気の合った相手も見付からず、又そのうちに裏の家へルミーさんのような児のある人が来ないか知らん、などと云い云いしたが、外人向きに建てた借家であるから日本人は借りようとせず、かと云って西洋人は、世界中に動乱の兆が見える昨今、皆シュトルツ氏と同じような理由で東亜を引き揚げようとする者が多いので、当分その家は塞がりそうもなかった。
幸子もしょざいなさに習字の稽古をしたり、お春に琴の手ほどきをしてやったりして日を送ったが、「淋しいのは悦子ばかりではありません。