「おい、来月は六代目が大阪へ来るで」
と、そう云って、五日目あたりに行こうではないか、今度は鏡獅子が出るそうだから、こいさんも来られないか知らん、などと云ったが、妙子は来月も上旬は殊に忙しいから、自分は別の日に行くと云うことだったので、その日夫婦は悦子を連れて三人で出かけた。
幸子は九月に東京で見られなかった不満を充たし、且は悦子にも菊五郎の所作事を見せてやりたいと思っていた願いを果たしたことであったが、その夜、鏡獅子の後の幕間に、彼女が廊下へ立って行って不意に涙を落したのを、悦子は気が付かなかったけれども貞之助が見咎めた。