と云うのは、一人前の洋裁師になるために仏蘭西へ修業に行きたい、と云う妙子の願望にはもう一つ奥があって、なぜ洋裁師になりたいかと云えば、将来奥畑と結婚した時に、自分が奥畑を養って行く場合が起りそうだから、―――と云う前提に基づいているのである。
そこで順序を蹈むとすれば、その前提条件、奥畑との結婚から承認して貰うことが先決問題なのであるが、そうなると事が面倒で、今の間には合わないであろうし、取次をする貞之助も、そう云う重い使命を負わされることは厭がるであろう。
又妙子としても、さしあたり洋行さえ出来ればよいので、好んで事件を紛糾させたくはないのであるから、この際結婚の話は伏せて置く方が良策ではあるまいか。