しかし幸子は、その晩夫にその使命を依頼する時、自分の一存で猶一つ二つ云い添えた事柄があった。
と云うのは、なるべく妙子を板倉や奥畑から遠ざけた方がよいと考えている彼女は、妙子自身とは別な理由からも、妙子の洋行を熱心に望んでいるのであったが、板倉の件は夫にも誰にも嘗て口外したことがないので、奥畑のことだけを、附け加えて話してくれるように夫に頼んだ。
つまり、最近奥畑が妙子との結婚問題について諒解を求めに一二回蘆屋へ現れたこと、幸子が会って見たところでは、表面真面目らしい態度を装っているが、どうも昔の純真さがなくなっているように思えること、貞之助が内々調べたところでも、盛に花柳界やカフェエなどに出没する様子であり、前途有望な青年とは受け取れぬ節が多いこと、等々の事情を話して貰い、この際妙子の気持が洋裁の技術習得の方へ向いているのは結構であるから、いっそその希望を容れてやって洋行させたら如何であろうか、妙子ももう二十八にもなって、まさかあの頃のような無分別はする筈もないが、一度間違いがあったことだから、暫くでもあの青年の手の届かない土地に置く方が安全と思う、―――と云う風に持ちかけて貰う。