妙子の云い分は、自分は既に子供ではないのだから、身の振り方を定めるについて、兄さん達の指図は受けない、自分のことは誰よりもよく自分が知っている、一体職業婦人になることがどうしてそう悪いのであろう、兄さん達は未だに家柄とか格式とかに関わって、一家一門の中から女洋裁師が出ることを、ひどく不名誉か何ぞのように思うのであろうが、それこそ時代後れの嗤うべき偏見ではないか、こうなったら自分が行って堂々と所信を述べ、兄さん達の誤った考を説破してやる、と云うのであったが、金の問題についての憤激は非常なもので、そう云うことを兄さんに云わして置く姉ちゃんが悪い、と、今迄義兄を攻撃しても姉を批難したことはなかったのに、今度は専ら鉾先を姉に向けた。
なるほど、名義は私のものになっていないかも知れないが、将来私に与えるべきものとして兄さんが預かっているものがあることは、富永の叔母ちゃんからも聞いているし、姉ちゃんもいつかそう云ったではないか、それを今になって、そんな曖昧なことを云うのは怪しからない、本家は子供が殖える一方で暮しが懸るものだから、兄さんもいつの間にか気が変ったのであろうが、姉ちゃん迄がそれを平気で取次ぐと云う法があろうか、よろしい、本家がそう云うなら此方にも覚悟がある、きっとそのお金は取るようにして取って見せる、と、泣いて敦圉く始末なので、幸子はそれを宥めるのに一と汗掻かねばならなかった。
まあ、貞之助兄さんの云い方も拙かったのかも知れないから、そう一途になられては困る、こいさんの云うことも分るけれどもあたし等の立ち場も考えて貰いたい、直かに談判しに行くのもよいが、話すなら穏かに話したらどうか、本家に対してこいさんが喧嘩腰になられたら、私等が迷惑する、私等はそんなつもりでこいさんの味方をしたのではないのだから、―――と、こうも云い、ああも云いして言葉を尽したが、妙子も一時忿懣の余り感情の掃け口を求めた迄で、さすがにそれを実行する迄の勇気はないらしく、二三日するとだんだん興奮が静まって、いつもの落ち着いた妙子になった。