何でも夫君の意見と云うのは、最近欧洲から帰朝した或る武官の説なのだそうであるが、それに依ると、その後独逸と英仏との関係は、去る九月末のミュンヘン会議以来表面小康を保っているけれども、決して相互が真の諒解に到達したのではない、英国はまだ戦備が整っていないので、一時独逸を油断させるために妥協したに過ぎず、独逸も亦英国の意図を察してその裏を掻こうとしているから、戦争は必ず近いうちに起ると云うので、まあそれやこれやの理由から、結局女史も思い止まることにしたのであった。
それで妙子は、女史が止めるのでは仕方がないから、自分も止める、但し洋裁師になることは、本家が何と云おうとも止めない、お正月から洋裁学院が始まるなら、自分も亦稽古に通おうと思う、自分は今度のことで、一日も早く本家の仕送りを完全に断って自立する必要のあることを、ひとしお痛切に感じるに至ったから、そう云う点からも技術の習得を急がなければならない、と云うのであった。
「こいさんはそれでええやろけど、洋裁の稽古止めて貰わなんだら、あたし等が本家に対して言訳立たんようになるわ」