当人に云わせると、啓ちゃんのような甲斐性なしに連れ添うのには、もしもの時に自分が夫を食べさせる用意が必要だから、と云うのだけれども、奥畑はあの通り何不足ない若旦那の身分で、食うに困るなんと云うことは、それこそほんとうに「もしもの時」である。
そんな薄弱な理由で洋裁を習いたがったり、洋行したがったりするのはどうも不自然で、それよりは愛する人と新家庭を持つ日が早く来るようにと、願わねばならないところであろう。
昔から早熟で、老成した、用心深い一面を持つ妙子のことであるから、結婚するのにも先の先まで考えて準備して置くと云うことは分るが、それにしても何となく腑に落ちかねる点がある。