あの夕方板倉方へ現れた時の奥畑は、パナマ帽に瀟洒とした紺背広を着、秦皮のステッキにコンタックスを提げて、こんな時にこんな風をして擲られはしまいかと思うような身なりをしていたそうであるが、あの田中の所の水が渡れなかったのも、折目の附いたズボンを濡らすのが厭だったのではあるまいか。
それを貞之助や、板倉や、庄吉までが彼女を救い出すために泥まみれになって働いてくれたのと比べると、余りな相違ではないか。
彼女は奥畑のお洒落なことを知っているから、何も泥まみれになってくれと云いはしないが、あれでは普通の人情さえないのである。