尤も彼女は、どう云う場合にも冷静を失わない性質なので、板倉を恋いするようになっても、そのために盲目になりはしなかった。
殊に奥畑の時で懲りているので、今度は先の先迄も慮り、損得の打算もして見、随分如才なく商量した上で、どうしても板倉と結婚するのが自分を幸福にする道であると、思うようになったのであった。
幸子は実は、板倉と妙子との関係についてさまざまな臆測を下してはいたものの、まさか妙子が結婚の覚悟までしていようとは思いも寄らなかったので、その告白を聞いた時の驚きは一方ならぬものがあったが、妙子は板倉が丁稚上りの無教育な男であることも、岡山在の小作農の忰であることも、亜米利加移民に共通な欠点を持つ粗野な青年であることも、よく知っていて、それらを差引勘定して、この決心に到達した、と云うのであった。