然るに板倉は、その条件が揃っているばかりでなく、なおよいことには、田舎に兄が三人もあるので、彼には親兄弟の面倒を見る責任がなかった。
(今同居している妹は、家事や営業を手伝って貰うために呼び寄せてあるので、嫁を迎えれば帰すことになっていた)つまり板倉は本当の独りぼっちであるから、誰に遠慮もなく思う存分可愛がって貰えるので、それが妙子には、どんな家柄の、どんな資産家の夫人になるよりも、結局気楽でよいと云うのであった。
勘の早い板倉は、可なり前から妙子の気持を以心伝心的に悟っていたらしく、言語動作にそれを露骨に現わしていたが、それでも彼女がはっきりした言葉で意中を告げたのは、そんなに古いことではなかった。