二人はさしあたって、自分達が結婚の約束をしたことは当分の間誰にも絶対に秘密にして置くこと、それより先決問題は妙子が奥畑との婚約を取消すことであるが、それも性急な手段を避けて、徐々に奥畑に分らせるように、出来れば奥畑が自発的に断念するように仕向けること、その最良の方策として、妙子は是非洋行すること、自分達が結婚するのはまだ二三年先でよいが、その場合方々から経済的圧迫を加えられるようなことがあるかも知れないから、今からそれに対抗する用意をして置くこと、その用意の一つとしても妙子は洋裁の技術習得に精進すること、等々を申し合せてそれを実行するつもりであったが、間もなくハタと当惑してしまった。
と云うのは、妙子の洋行の計画が、本家の反対と玉置女史の予定変更のために実現不可能になったからであった。
妙子の腹では、奥畑が自分を追い廻すのは、一つは板倉に対する意地があるのだから、自分が日本にいる間はなかなか絶縁する訳には行くまい、それで巴里へ行った後に、自分のことは諦めてくれろと云う意味の手紙を出して暫く姿を晦ましていれば、奥畑もしまいには諦めるであろう、と云うのであったが、洋行が駄目となると、恐らく奥畑は、それも板倉がいるために止めたのだと云う風に、一層曲解していよいよ彼女を追い廻すであろうと思えた。