もともと蒔岡家の側では、雪子が純潔であることは誰の眼にも明かであるし、他にこれと云って、調べられて困るような弱点はなく、ただ妙子と云う毛色の変った妹が一人あることが、人々の注意を惹き易いところから、調べる者も本人の雪子よりは、疑問の多い妙子の方を調べようとする風があるので、彼女のことは身内の者が知らなかったり庇ったりする割に、案外世間は知っていそうに思えるのであるが、そう云えば幸子は、方々へ雪子の縁談を頼んであるにも拘らず、去年の春以来何処からも話を持って来てくれる者がなくなったのは、ひょっとすると妙子の良くない噂が立っており、それが今度も妨げをしているのではないか、とも案じられて来た。
もしそうならば雪子のためにも捨てて置けないし、それに、そんな噂が、蔭でこそこそ囁かれているうちはまだよいけれども、廻り廻って本家の耳へ這入った場合、自分一人が責められなければならないのは、辛いことであった。
貞之助や雪子なども、そんな事件になっていたのなら、なぜ打ち明けて相談してくれなかったのかと云うであろうし、妙子を飜意させるのにも、自分一人の力では覚束ないので、貞之助と、雪子と、三人で代る代る諭して見たら利き目がありそうにも考えられた。