貞之助は、今月は或る会社の整理の仕事が忙しく、二十一日には行けそうもないと云っていたが、当日の朝事務所から電話で、こいさんの「雪」だけでも見たいと思うから、「雪」が始まる少し前に知らせてくれるように幸子に云って来た。
と、今から来やはったらちょうど好い時分ですと、幸子から知らせて来たのが二時半頃であったが、出ようとするところへ来客があって三十分ばかり用談をしていると、大急ぎでお越しにならなんだら間に合いませんと、お春の声で又懸って来たので、あたふたと客を追い帰して、堺筋今橋の事務所から、一と跨ぎの距離なので帽子も被らずに昇降機に走り込み、電車通りを横切って向う角の三越へ駈け付けた。
そして、八階ホールの会場へ上って見ると、舞台ではもう妙子が舞っているのであった。