貞之助も、席を捜している時間がないので、立っている人々の肩の間から覗いていたが、ふと気が付くと、一間ばかり離れたところに、見物人の最後列に立って、ライカを舞台の方に向けて、ファインダーに顔を押し着けている男のいるのが、板倉に紛れもなかった。
貞之助ははっとして、先方から見付けられないうちに遠い隅の方へ逃げて来て、時々こっそり窺うと、板倉は外套の襟を立てて顔を埋め、めったにキャメラから首を挙げないで、つづけざまに妙子を撮っている。
が、当人は人目を避ける積りでわざと外套を着ているのであろうが、その外套と云うのが、ロスアンジェルス時代のものらしい映画俳優好みの派手な柄なので、却って目立っているのであった。