そう云えば彼は、去年の舞の会の時にも、平素は十以上も若く見える妙子が、その日に限って年増の地金を露わしているように感じたのであるが、こうして見ると、日本のこう云う徳川時代的服装は、大体に女を老けさせるのであろうか。
それともこれは妙子に限ったことなので、一つには平素の溌剌とした洋装に対照させる古典的服装のせいでもあるが、一つには彼女が舞の時に示す舞台度胸のせいでもあろうか。
と、貞之助は、舞が終った途端に、慌ててライカを小脇に挟んで急ぎ足に廊下へ出て行く板倉を認めたが、彼の姿が扉の向うへ消えたのと間髪を入れずに、観客席の何処からか一人の紳士が非常な勢で走り出て、派手な外套の後影を追うように、その同じ扉に体でどんと突き当りつつ出て行ったのを見た。