そう云うと奥畑は、刑事が通行人を検べるように板倉の体を撫で廻して外套のボタンを外すと、上衣のポッケットへ手を挿し入れて、素早くライカを引っ張り出した。
それから、それを、自分のポッケットへ突っ込みかけたが、何と思ったか又取り出して、指先をがたがた顫わせながらレンズの部分を一杯に引き伸ばすと、コンクリートの床の上へ、カチンと、力任せに叩き着けて、後をも見ずに行ってしまった。
あっと云う間の出来事だったので、居合せた人々が気が付いた時分には、もう奥畑の影は見えず、板倉が投げ飛ばされた写真機を拾い上げて、すごすご立ち去るところであった。