あっと云う間の出来事だったので、居合せた人々が気が付いた時分には、もう奥畑の影は見えず、板倉が投げ飛ばされた写真機を拾い上げて、すごすご立ち去るところであった。
それにしても板倉は、始終の間直立不動の姿勢をして下を向いたきり、旧主の坊々の前に出ては全く頭が上らない形で、日頃命よりも大切にしているライカが床に転がるのを見つつも自慢の体力や腕力に物を云わせず、じっと怺えてしまったのであった。
貞之助はちょっと楽屋へ顔を出して人々に挨拶をし、妙子の労を犒った後で、直ぐに事務所へ引っ返したので、その時は何の話もしなかったが、その晩おそく、悦子や義妹達が寝間へ引き取ってから、妻にだけ昼間目撃した事件を告げた。