妙子はこの親爺とは可なり前からの馴染で、或は与兵の発見者の一人であったかも知れない。
外で食事することの多い彼女は、神戸も元町から三宮界隈に至る腰掛のうまいもの屋の消息には実によく通じていて、まだこの店が今の所に移る前、取引所の筋向うの細い路次の、今よりもっと小さな所で商売を始めた頃に早くも此処を見付け出して、貞之助や幸子達にも紹介したのであった。
彼女に云わせると、此処の親爺は「新青年」の探偵小説の挿絵などにある、矮小な体躯に巨大な木槌頭をした畸形児、―――あれに感じが似ていると云うことで、貞之助達は前に彼女から屡〻その描写を聞かされ、彼がお客を断る時のぶっきらぼうな物言い、庖丁を取る時の一種興奮したような表情、眼つきや手つき、等々を仕方話で委しく説明されていたが、行って見ると、又本物が可笑しいほど彼女の真似によく似ていた。