彼女に云わせると、此処の親爺は「新青年」の探偵小説の挿絵などにある、矮小な体躯に巨大な木槌頭をした畸形児、―――あれに感じが似ていると云うことで、貞之助達は前に彼女から屡〻その描写を聞かされ、彼がお客を断る時のぶっきらぼうな物言い、庖丁を取る時の一種興奮したような表情、眼つきや手つき、等々を仕方話で委しく説明されていたが、行って見ると、又本物が可笑しいほど彼女の真似によく似ていた。
親爺は先ず、客をずらりと並べて置いて、一往何から握りましょうと注文を聞きはするけれども、大概自分の仕勝手のよいように、最初に鯛なら鯛を取り出して、頭数だけ切り身を作って、お客の総べてに一順それを当てがってしまい、次には蝦、次には比目魚と云う風に一種類ずつ片附けて行く。
二番目の鮨が置かれる迄の間に、最初の鮨を食ってしまわないと、彼は御機嫌が斜めである。