取り分け鯛の好きな幸子が、妙子に此処を紹介されてから、忽ちこの鮨に魅了されて常連の一人になったのは当然であるが、実は雪子も、幸子に劣らないくらいこの鮨には誘惑を感じていた。
少し大袈裟に云うならば、彼女を東京から関西の方へ惹き寄せる数々の牽引力の中に、この鮨も這入っていたと云えるかも知れない。
彼女がいつも東京に在って思いを関西の空に馳せる時、第一に念頭に浮かぶのは蘆屋の家のことであるのは云う迄もないが、何処か頭の隅の方に、折々は此処の店の様子や、親爺の風貌や、彼の庖丁の下で威勢よく跳ね返る明石鯛や車海老のピチピチした姿も浮かんだ。