尤も悦子は一週間程前から何となく体がしんどいと云っていて、京都でも余り元気がなかったのであるが、その晩帰宅してから測ると四十度近い体温なので、取り敢えず櫛田医師の来診を求めたところ、猩紅熱の疑いがあるから明日なおよく診ましょうと云って帰った。
と、明くる日には、口の周りを除いて満面紅潮を呈して来たので、もう疑いがない、こう云う風に、口の周囲だけを残して顔が猿のようになるのが猩紅熱の特長ですと、櫛田医師は云って、隔離室のある病院へ入院するようにすすめたが、悦子がひどく入院を嫌がるので、伝染病と云っても大人はめったに感染しない病気であるし、そう一軒の家に患者が続出する例は稀でもあるから、なるべく家族の方が出入りなさらないように病室を隔離することが出来るなら、家庭で治療されても、と云うことになった。
幸いそれには、貞之助の書斎が離れになっているので、此処を取り上げられては困ると貞之助は不服を唱えたけれども、幸子が無理に承知をさせて当分書斎を母屋の方へ移して貰い、そこを病室に当てることにした。