で、貞之助が夫婦の寝室になっている二階の八畳へ机や手文庫や書棚の一部などを運び、邪魔な物は納屋や押入へ片附けてしまった跡へ、悦子が看護婦を連れて引き移って行き、一往母屋との交通を断つようにはしたが、それが完全に行われる訳はなく、病人や看護婦の食事など、一々此方から運ばなければならないので、どうしても一人連絡係を置く必要があった。
それには食器などを扱う下働きの下女は危険で、さしあたりお春が最も適任であり、当人も亦、伝染病を恐れないことにかけては誰よりも勇敢なところから、喜んでその役を買って出たが、二三日勤めさせて見ると、自分が恐がらないのはよいとして、病室の出入りに消毒することを実行せず、病人に触った手で何にでも触ると云う風なので、あれでは病菌をバラ播くようなものだと、第一に雪子から苦情が出た。
そして結局、お春が罷められて雪子が任に当るようになったが、これはこう云うことには馴れたものなので、注意が甚だ細心であり、と云って徒に恐がるのではなく、看護も実によく行き届いた。