病室の方でも、悦子が快方に赴くに従い、無聊に苦しむようになったので、毎日のように蓄音器を鳴らしたが、旧シュトルツ邸へ越して来た瑞西人の所から、少し遠慮して貰えないであろうかと、或る日故障を云って来た。
この瑞西人は大分気むずかしい人だと見えて、今から一箇月ばかり前にも、犬が吠えて眠れないから何とかして貰えないかと申し込んで来たことがあった。
そう云う時には、直接ではなく、彼が住んでいる洋館の家主で、幸子の家から一軒置いて隣に当る佐藤家を介して云って来るので、同家の女中が、かの瑞西人が英語で二三行したためた紙片を持って来るのである。