と云うのは、悦子が病室に使っている離れ座敷、―――平素貞之助の書斎になっているその一と棟は、金網の垣根とは違う別の板塀で、全く覗かれないように囲ってあるけれども、距離的には一番裏の家に近いので、もとシュトルツ一家がいた頃には、貞之助の方が屡〻ペータアやローゼマリー等の騒ぐ声に悩まされたものであった。
だからそこで蓄音器を懸ければ、やかましやの瑞西人ボッシュ氏の癇に触れることは当然であった。
なおついでだから此処でちょっとボッシュ氏のことに及んで置くと、前にも云った通りこの人は名古屋の方に勤め口を持っているらしいのであるが、こんな叱言を云って来るのでも明かなように、時たま此方へ帰って来て滞在することもあるのであった。