なおついでだから此処でちょっとボッシュ氏のことに及んで置くと、前にも云った通りこの人は名古屋の方に勤め口を持っているらしいのであるが、こんな叱言を云って来るのでも明かなように、時たま此方へ帰って来て滞在することもあるのであった。
が、彼がどんな人であるか、蒔岡方ではまだ誰も彼の正体を見届けた者がなかった。
シュトルツ時代には、主人シュトルツ氏以下、夫人や子供達が始終露台に現れたり裏庭へ出て来たりしたものだけれども、ボッシュ氏になってからは、夫人が時々姿をちらつかせるぐらいなもので、ボッシュ氏その人は嘗て現れたことがない。