そのくせ、露台へ椅子を持ち出して、密かにそれに腰掛けている折もあるらしいのだけれども、今度露台の鉄柵の内側へ、ちょうど椅子に掛けた人の頭の高さぐらいに、板囲いをしてしまった。
つまりボッシュ氏は、人に見られることを甚しく恐れているに違いなく、何にしても余程の変人なることは明かであったが、佐藤家の女中の話では、非常に病身な、神経質な人で、毎夜不眠症に悩まされているのだと云うことでもあった。
それかあらぬか、或る時刑事が蒔岡方へ来て、あの外人は瑞西人と自称しているけれども本当のことは明かでなく、どうも行動不審であるから、注意してくれ、万一怪しい素振があったら直ぐ警察へ知らせてくれと云って帰ったが、主人が国籍不明の人で年中旅行ばかりしており、細君が支那人の混血児らしく見えるのでは、そう云う疑いの眼で見られても仕方のないところがあった。