お嬢ちゃんが御病気の時ぐらい蓄音器かけたかてええやありませんか、あの西洋人は近所附合い云うこと知らんのですやろかと、お春は憤慨したが、まあまあボッシュさんは変り者やよってに仕方ない、それに朝から蓄音器を鳴らすのは時節柄面白うない、と、貞之助が制したので、悦子はそれからは毎日トランプをして遊んだ。
しかしこのトランプ遊びにも雪子から故障が出たと云うのは、猩紅熱は恢復期に這入って瘡蓋が盛に脱落する時が最も伝染し易いのである、悦子はその時期にいるのだから、今が一番警戒を要するので、トランプなどをしては相手に移す危険があると云うのであったが、いつもその相手をするのは看護婦の「水戸ちゃん」とお春なのであった。
「水戸ちゃん」と云うのは大船の女優水戸光子に似ているので悦子がそう呼んでいるのであるが、この看護婦は自分が一度猩紅熱に罹ったことがあって、免疫性になっていた。