しかしこのトランプ遊びにも雪子から故障が出たと云うのは、猩紅熱は恢復期に這入って瘡蓋が盛に脱落する時が最も伝染し易いのである、悦子はその時期にいるのだから、今が一番警戒を要するので、トランプなどをしては相手に移す危険があると云うのであったが、いつもその相手をするのは看護婦の「水戸ちゃん」とお春なのであった。
「水戸ちゃん」と云うのは大船の女優水戸光子に似ているので悦子がそう呼んでいるのであるが、この看護婦は自分が一度猩紅熱に罹ったことがあって、免疫性になっていた。
お春は又、あたしは移ったかてちょっとも恐いことあれしませんと云って、病人が食べ残した鯛の刺身などを、外の女中達は手も出さないのに彼女一人はこの時とばかり貪り食べると云う風で、最初のうちこそ雪子にやかましく云われ云われして近寄らないようにしていたけれども、悦子が淋しがって頻りに呼びに寄越すのと、そんなに用心しないでもめったに移るものじゃありませんなどと「水戸ちゃん」が云うのとで、雪子の叱言もそうそう利かないようになって、この頃では一日病室に入り浸っていた。