なおよく聞くと、渋谷では義兄も姉も、妙子を下へも置かぬような款待ぶりで、義兄は今朝も出がけに、こいさん折角来たのだから、今度はゆっくりして行ってくれ、狭い所で気の毒だけれども今は雪子ちゃんが留守だから、どうにか繰合せが付かなくはない、生憎僕は此処のところ忙しいが、五六日すれば暇になるから何処へでも案内しよう、尤も昼は一時間休みがあるから、今日でも正午に丸の内の方へ来てくれたら昼食ぐらいは附き合ってもよい、などと云ってくれ、今日丸ビルのプレイガイドで歌舞伎の切符を取って上げるから、二三日中に、鶴子と、幸子ちゃんと、三人で行って来給えなどと、気味が悪い程の上機嫌で、今迄こんなに義兄から親切に云われたことはないくらいであった。
彼女は義兄や子供達が出かけたあとで、早速姉を掴まえて一時間ばかり懸って用件を可なり委しく話したが、姉は少しも厭な顔をせず、終始熱心に聴いてくれた。
そして、まあ兄さんが何と云やはるか、相談して見るが、実は今度兄さんの銀行が合同することになったので、兄さんは大変忙しく、夜も帰りが遅いような有様だから、暫く待って貰いたい、来週になったら多分話が出来ると思うから、それまで呑気に遊んでいたらよいだろう、こいさんも久し振にお上りさんになった積りで、輝雄に方々案内でもさせたらどうか、それに幸子ちゃんも一人で退屈だろうから、築地へも行って上げなさい、と云われたので、どんなことになるか分らないけれども、一往姉の言葉に任せて待つことにした、と云うのであった。