そして、まあ兄さんが何と云やはるか、相談して見るが、実は今度兄さんの銀行が合同することになったので、兄さんは大変忙しく、夜も帰りが遅いような有様だから、暫く待って貰いたい、来週になったら多分話が出来ると思うから、それまで呑気に遊んでいたらよいだろう、こいさんも久し振にお上りさんになった積りで、輝雄に方々案内でもさせたらどうか、それに幸子ちゃんも一人で退屈だろうから、築地へも行って上げなさい、と云われたので、どんなことになるか分らないけれども、一往姉の言葉に任せて待つことにした、と云うのであった。
妙子は昨日、汽車が沼津辺へ来た時に富士が大部分雲に隠れているのを見て、どうも前兆がよくないなどと冗談を云っていたくらいで、今度の上京の目的が達し得られるかどうかについては、今も自信を持っていないばかりでなく、本家の夫婦に籠絡されてはならないと云う警戒心も強いのであったが、それでも夫婦から珍しくちやほやされたことが満更でもないらしく、あんなことを云ってペテンにかけたら承知しないなどと云いながらも、嬉しそうな様子であった。
昨夜ほんとうの一人ぼっちで浜屋の二階に眠った幸子は、旅の空とは云えいかにも心細い気がして、夜じゅう寝られないでしまったので、これが五六日も続く佗びしさを考えていたのであったが、その晩は又ゆくりなくも十畳の座敷に妙子と二人、何年ぶりかで姉妹が枕を並べて横になった。