蒔岡さんに御面会の方が来ておられますと云うことなので、正面の入口に出て見ると、階段のところに浜屋の女中が立っていて、先程蘆屋のお宅から電話が懸って参りましたよってに(と、その女中も大阪訛のある言葉で云った)そのことを申し上げようと、何遍も歌舞伎座へ電話致しましたけど、話中でどうしても懸らんものでございますから、それよりあんたが一と走り行って来なさいと、お上さんが申されまして、………と云う。
どんな電話があったのかと聞くと、電話にはお上さんが出やはりましたのんで、私が伺ったのではございませんけど、何か、御病人の御容態がえらいお悪いような話でございます、尤も御病人と申しますのんはお嬢ちゃんのことと違いますそうで、………何でもこの間からお嬢ちゃんが猩紅熱でお臥みになっていらっしゃいますそうですが、病人と云うのんは、そのお嬢ちゃんのことやのうて、耳鼻咽喉科へ入院してなさるお方のことで、こいさんがよう御承知やさかいに、それをお間違えにならんようにと、くれぐれも念をお押しになったそうで、………お上さんが、只今御寮人様もこいさんも歌舞伎座へ行っていらっしゃいますが確かにそのことは直ぐにお伝え申します、御用はそれだけでございますか申しましたら、こいさんだけでも、なるべく今夜の夜行でお帰りになりますように、もしそれまでに時間があったら、こちらから電話をお懸け下さるようにと、仰っしゃったそうでございます、と、そう云う話であったと云う。
「そんなら、板倉のことかいな」