幸子は、少し話していると直きに蚊の鳴くような細さになるので、しゃべっている時間より「もしもし」と云っている時間の方が長いように感じられたが、漸くきれぎれに聴き取り得たところでは、今日の午後四時頃「板倉の妹でございます」と云って電話があり、板倉が耳の手術のために入院していたこと、経過は良かったのであるが、昨夜あたりから、容態が急変したことを知らせて来た、と云うのであった。
急変と云うのは脳を侵されたのだろうか、と云うと、そうではないかと思ったけれど、脳はどうもない、脚だと云うのであると云う。
脚がどうしたのかと云うと、どうなのかはっきり分らないが、えらい苦しみ方で、ちょっと触っても跳び上るように痛がり、痛い痛いと身を踠いて呻き続けているそうだと云う。