幸子は妙子が今立って行ったこと、自分も後に残っていても仕様がないので、明日じゅうには立つ積りであること、等々を語って、電話を切りしなに悦子の様子を尋ねると、これはもう元気になり過ぎて、病室に大人しくしていることが出来ず、ふらふらその辺へ飛び出したがって始末に負えない、瘡蓋も体じゅう殆ど剥がれて、纔かに足の蹠に少し残っているだけである、と云うのであった。
幸子は自分も怱々に立つとして、姉にどう云う挨拶をして行ったものか当惑したが、どう考えてもこの場合を巧く云い繕う口実がないので、いくらか変に思われても仕方がないと度胸を極めて、翌朝電話で、昨夜妙子が急用が出来て関西へ帰ったことを告げ、自分も今日帰ることにしたので、何処かでちょっと会いたいが、此方から渋谷へ出向こうかと云うと、それならあたしが行こうと云って、間もなく妙子の鞄を持って姉が浜屋へ現れた。
姉は姉妹の中でも一番おっとりしたところがあり、妹たちから「神経が鈍い」と云われているだけに、妙子の急用と云うのが何であるのか、別に聞こうともしないのであったが、それでも厄介な用談を提げて来た末の妹が、回答を待たないで帰ってしまったので、ひそかに胸を撫でおろしているらしいことは、様子にも窺われた。