にも拘らず、院長は病人がそうなってから、手術の痕はきれいに直って来ている、と云うだけで取り合ってくれない。
午前中に一回、ガーゼを詰め変えに来ると急いで出て行ってしまって、今日でまる二日と云うもの、こんなに苦しがる病人を放ったらかしたままなのであるが、看護婦などは、この手術は院長先生の失敗です、ほんとうにお気の毒ですと云っている。
妹は板倉の容態が悪化してから、田中の家に鍵をかけてずっと附き切っていたのだけれども、こうなると誰か相談相手が欲しく、万一のことがあっては自分の責任でもあると思い、至急妙子に帰って来て貰うより外にないと考えて、兎も角も蘆屋へ電話を懸けた(何処か病院以外の所から懸けているらしかった)と云う訳で、わたくし、勝手にこんな電話を懸けて、後で兄に叱られるかも知れませんけれどもと、電話口で泣き声を出しているのであった。