幸子は夜汽車で眠れなかったのを取り返すために、暫く二階の八畳で横になって見たが、何となく気に懸って寝付かれないので、あきらめたらしく降りて来て顔を洗い、お昼の御飯を早くするように台所に声をかけておいて、電話口へ貞之助を呼んだ。
―――板倉の病気に、こいさんが呼ばれて駈け付けると云うことは事情已むを得ないとしても、あたし迄が顔を出しては、二人の関係をおおびらに認めたような結果になるので面白くないと思うけれども、水害の時にこいさんが世話になったことなどもあるのに、知っていながら見舞いにも行かずにいて、これきりになったら寝ざめが悪いような気がする、それに、どうも板倉は助からないのではあるまいか、あの男は頑丈な体をしているけれども、何処か薄命の相があるように思える、と、幸子が云うと、僕も何となくそんなような気がするから、ちょっとぐらいなら見舞いに行ってやっても差支えないが、………と貞之助も云ったが、しかし、奥畑もやって来るのではないであろうか、それだとお前が行かない方がよくはないか、などとも云い、結局、奥畑に打つかる心配がなければ行くのもよいが、長居をしないで帰って来なさい、なるべくならこいさんも、そういつ迄も附けて置かないで、お前が帰る時に連れて帰りなさい、と云うような意見に落ち着いた。
で、今度は妙子を呼び出して、啓坊に打つかりはしないであろうか、と云うと、今のところ親兄弟の外には誰も来ていないし、誰にも知らしてないが、たとい容態がどうなるにしろ、奥畑の方へ知らす必要はないであろう、殊に啓坊に来られると、病人を興奮させるような結果にならないとも限らないから、うちが反対して、そんなことはさせないようにする、と云い、それよりも実は、中姉ちゃんに来て貰うように此方から頼もうかと思っていたのである、と云うのは、外科へ渡そうかどうしようかで未だに相談が纏まらないでごたごたしている、うちと妹とは外科医に委ねることを熱心に主張しているのであるが、親たちが煮え切らないので埒が明かない、中姉ちゃんが来て口添えをしてくれると助かるのだけれども、―――と云うのであった。