そんなら御飯を食べて直きに行くから、と、そう云って電話を切った幸子は、雪子と二人でいつもより早い昼食を取りながら、この際看護婦の口から妙子のことなどが世間へ洩れては宜しくないし、もう昨今では殆ど悦子の遊び相手をしているようなもので、何の用事もないのであるから、今日で「水戸ちゃん」に帰って貰ったら、と考えつき、そのことを雪子に相談すると、「水戸ちゃん」自身も、もうお暇を戴きましょうかと云っているのだと云うことなので、そしたら急のようだけれども、今日、あたしが戻る迄いて貰って、晩の御飯でも食べてから帰るように雪子ちゃんから話しといて、と云い置いて、病院まで直行することにして十二時に自動車を命じた。
行って見ると、中山手の電車通を山手の方へ半丁程上った細い坂路の中途にある、病院と云っても二階建ての見すぼらしい医院で、階上に日本間の病室が二つ三つあるに過ぎなかった。
板倉の部屋は六畳間で、窓の外に裏側の家の物干台が近接してい、洗濯物が何枚も吊るしてあるのが鬱陶しく、セルの単衣の頃なので、四五人の人間がそこらに坐ったり腰掛けたりしている風通しの悪い室内が汗臭くいきれていたが、病人は、右手の壁に寄せつけてある鉄の寝台に、壁の方を向いて、背中を少し円くして臥ていた。