病人も亦母親に甘えるような風があり、彼女の云うことなら何を云われても黙って聴いていた。
妙子の話だと、病人を外科へ移す相談が停頓しているのは、実際はこの老婆一人が「うん」と云わないからなのだそうであるが、幸子が来てからも、一方では父親と母親、一方では妙子と妹とが二組に分れてときどき部屋の隅の方へ行ったり、外の廊下へ出て行ったりして、こそこそと囁き合い、中に這入って双方を執り成しているらしい嫂が又、彼方へ呼ばれたり此方へ呼ばれたりしていた。
老夫婦の云っていることはひどく小声で、幸子には聞き取れないけれども、母親が何か頻りに歎息するような口調で云うのに、父親も動かされながら耳を傾ける様子である。